01
「これも、いつの間にやら満開だな。一護」
「二月だしな」
「良い香りだ」
見上げる、白。ごつごつとした幹と枝の先。満開の梅の花。
ふわりと風が吹いて、彼女の黒髪を巻き上げた。
夕方の風は、昼よりも随分冷たい。
無意識にマフラーを巻いた首を竦めて、そんな自分と微動だにしない彼女に気付いた。
端然と立ち、白い花を咲かせる梅。
高雅な香り。
その下で立つ、彼女。
高校の制服を着ているのに、妙に堂々とした後ろ姿。
華奢なのに、弱さを感じさせない背中。
嗚呼、畜生。
――格好良いとか、思っちまったじゃねえか。
そういうの、有り得ないだろう。普通。
多分、彼女は――、
満開の桜の下でも、鮮やかな紅葉の前でも、同じ様に堂々としているんだと確信した。
単純に、戦う力とか能力とか、そういう強さじゃない。
進む事に、生きる事に、戦う事に、信じる事に、全てに真っ直ぐ立ち向かっていける強さ。
いつの間にか、そんな風に強くなっていて。
しかも何故か俺の前に居るんだ。
――なあ、
「ルキア」
「何だ?」
「あー……イヤ、何でも無ぇ」
「貴様、人に呼び掛けて置いて何なのだ一体」
「だから何でも無ぇって。つーか、寒ぃからとっとと帰るぞ」
言うが早いか身を翻す俺に、何か文句を言いながら追い縋って来る。
適当な口調で相手をしながら、ちらりと彼女を見遣った。
――たまには、俺にも護らせろよ。
なんて、柄にも無い事を言った所で、大人しく聞くような女じゃない。
寧ろ、言ったら逆に怒る。莫迦にするな、と睨み付けられるのがオチだ。
だから、黙って誤魔化すしか他に無いだろう。
「ルキア」
「今度は何だ?」
「食後のデザート」
「白玉だな」
「……やっぱりか」
「何か文句でも有るのか貴様?」
「イヤ……遊子が白玉粉切れてたって言ってたから、スーパー寄るぞ」
「おお、それは一大事だな。よし、特別に私も付き合ってやろう」
「……何でそんなに偉そうなんだお前」
「何か言ったか?」
「いいえ、何でも無いデス」
テンポの良い、普段通りの会話のリズム。これでいい。
いつか、自分らしくて、彼女にも相応しい言葉が見付かるまでは。
――どうか、ずっとこのままで。
二ヶ月以上延々と放置されていた拍手御礼短文。気付けば桜が散っていました(…)
イメージは、ブリミュのSong for you(一応)