02
春の空。雲間から覗く青が柔らかい。
用無しになった傘を路の上で揺らして、隣に立つルキアを見た。
「……なあ」
「何だ?」
「何で傘さしてんだ?」
雨上がりの晴れの下で、傘を開いて歩く横顔に問い掛ける。
「雨、とっくに上がってんぞ」
「知っている」
くるりと傘が回って、落ち切っていなかった水滴が顔に飛んできた。
「……冷てぇ」
「ならば、傘をさせば良かろう」
「晴れてんだろ」
訳が分からないまま、不機嫌に応じる。
傘の陰で、くすりと笑う気配がした。
「餓鬼め……」
「五月蠅ぇ。つーか、オマエも十分ガキっぽいだろうが」
雨上がりに傘さしたまま歩くとか、小学生かテメーは。
厭味で返すが、別にルキアは向きになって言い返すでも無い。
珍しい事もあるものだと思っていると、ぽつりと聞こえた。
「傘が在るのだなと、思っただけだ」
それは、事実をそのまま言っているようで、それだけでは無い声。
「どれだけ降り続いても、止まぬ雨など無い。だが、永遠に降らぬ雨も無いからな」
くるくると回る傘の向こうで、俺に見えない彼女はどんな顔をしてるのか。
「――だから、傘が必要なのだ」
呟くような言葉を聞いて、咄嗟に手を伸ばした。
「だからって、ずっと傘さしたまんまじゃ、空が見えねぇだろ」
取り上げた傘の下から、驚いたような彼女が現れる。
「晴れてんぞ。――そんで、空も見える」
傘を追って上げた手を止めて、ルキアは今更のように視線を上げた。
広がる雲の隙間の青。僅かな切れ間から射す光。
「雨が止んでも、そのまま晴れるとは限らねぇけど。でも、今は晴れてる」
「……そうだな」
答えるルキアに畳んだ傘を返して、歩みの緩んだ彼女を僅かに追い越した。
「帰るぞ」
足音が止まる。
「オイ、ルキア。早くしねえと置いて……――」
風が、すぐ傍を駆け抜けた。
ほんの一瞬手が引かれて、バランスを崩しそうになりながら追い掛けた視線の先。
「一護! のろのろ歩いていては日が暮れる。早く帰るぞ」
勝ち誇ったように笑う顔に、
「そりゃ、こっちのセリフだ!」
日常に引き戻される。
彼女を追って駆け抜けた日々は、きっと、気紛れな空に似ていた。
前回は二ヶ月、今回は五ヶ月延々と放置されていた拍手御礼短文。気付けば夏を素っ飛ばして秋でした(…)
アニメのイチルキ手繋ぎED記念第二弾。