No Sound


 世界から、音が消えた。

 地面に倒れた俺に見えていたのは、赤い刀とそれを手にした男。
 確かに、その筈だった。
 だが――ぐらりと揺れた小柄な身体が、それでも踏み留まって視線の先に居る。
 見慣れた死覇装の足元に、滴る色。
 ――…ル……、
 混乱のまま彷徨う思考を、鈍い音が遮る。
 漆黒を貫いて視界に現れたのは、赤い切っ先。
『……この死神の、全てを飲み干せ』
 僅かな間を置いて続いた男の言葉は、斬魄刀へと告げられたもの。
 近いそれが、何処か遠い。
 ――……!
 数秒か、数十秒か。
 留まっていた赤い刃が、ゆっくりと黒の中に消えていく。
 ふ、と糸が切れたようによろめいた身体。僅かにこちらを向いた顔。
 黒髪の間から、覗く瞳。
「…………!」
 奇妙なスローモーションで展開された一瞬――巻き戻り、そして理解と共に一気に思考に流れ込む。
 斬られたのは、
「――…ルキア……ッ!!」
 傷で思うようにいかなかった身体を、一体どうやって動かしたのか。自分でも分からないまま、崩れ落ちた彼女に手を伸ばした。
「ルキア!? しっかりしろ! ルキアッ!!」
 抱き上げた上半身の軽さ、呆気無く両腕に収まる華奢さが、何故か酷く恐ろしい。
 青ざめた唇。血の気のない白い頬。
 伸ばして触れた肌の冷たさに、指が震える。
 ――何……で、
 俺は、動けなかった?
 俺に向かって振り上げられた刃の前に飛び出した姿を、確かに見ていた筈なのに。
 それなのに、
 ――どうして俺は……ルキアを……、
「……護れなかったようだな」
 低く告げられた言葉。
 真実を告げる言葉に、呼吸が乱れた。


 死神の女に取り縋る少年を、赤い着物と赤い刀の男は微かな苦い思いと共に見つめていた。
 思い出す。
 あの時、黒く変わり果てた『彼女』の身体を抱いた自分の姿を。
「……護れなかったようだな」
 お前も――俺も。
 ――何があっても、『彼女』を護ると決めていたのに。
「ルキア! おい、ルキア……ッ!」
 絶望の手前で、希望を引き戻そうとする声音に、覚えがある。
「ルキア!? ルキアッ!!」
 そう、俺も――咽喉が焼かれようとも、皮膚が焦げようとも構わなかった。
 名前を呼ぶ声に、答えてくれるのを待っていた。
 俺の名を、呼んで欲しいと願っていた。
 なのに、

 憎いのは、許せないのは――『彼女』を護れなかった……

 奇妙な符号に自嘲する。
 過去の自分が、無力な只の人間が、力を得た今、他でもない己の前に居た。

 黒い着物に、白い羽織を纏った死神達が舞い降りる。
 力無く倒れた死神と、その少女を抱く少年に、一瞬だけ痛みにも似た驚愕を走らせ、抜刀する。
 だがきっと、戦いの音も仲間の声も、あの少年には聞こえていない。

 響く剣撃。戦塵の向こうで、悲鳴に似た声がした。

 ――ルキアァァァ…――ッ!!!

 それは、閉じた世界を嘆く声。











二次創作というか(若干の妄想解釈入り)ノンフィクションです(爆)
という訳で新生ミュです。マジでコレ、舞台上でやってくれました。というか、実際はもっと凄いですけどね!!(小説用の書き方したら色々落ち着いてますがこんなもんじゃない)
初見は動揺とツッコミでこっちは大変でした。
ええもう、本当に有難うございます…!!!!
……まあ、イチルキ云々じゃなくても大好きですけどね新生。本命キャストの続投に多方面に感謝します。8月の東京公演はマジで通い倒す気満々です。
そして再演か続編本気で希望。しかしキャストと脚本・演出変えたら怒ります(笑顔)



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