「…………眠いわ」
「そりゃ、もう朝ですからね」
 うっすらと色を戻しつつある空を眺めて、修兵は当然とばかりに応じる。
 往来に人影は無く、薄明かりに起こされた鳥の声が大きく響く。
「あたし、今日仕事なのよね」
「いや、俺もそうなんですけど」
 反射的にそう言って、気付いて思わず隣を歩く乱菊を見た。
「……乱菊さん、自分も仕事ある癖に朝まで飲んでたんですか?」
「飲んでちゃ悪いの? っていうか、飲みに出ようって言ったのあんたでしょうが」
「寝るの勿体無いとか言って俺を巻き込んだのは乱菊さんなんですけど」
「イヤなら断りなさいよ」
「別に断りませんよ。嫌じゃないんで」
「だったら何か文句あるの?」
「文句じゃなくて、単に心配なだけですよ」
 さらりと言われた言葉の意味を、乱菊は一瞬考える。
「………何が?」
「眠いからって仕事サボった乱菊さんのせいで、十番隊の業務が滞るのが」
「………………」
 今度こそたっぷりと沈黙を取って、乱菊は修兵に向き直った。
「…………修兵、あんたケンカ売ってる?」
「いや、喧嘩も何も、これまでの事例からすると結構高確率でそうなると思うんですけど」
「そ。じゃあ安心して。今日はそうならないから」
「ならないんですか?」
「絶対ね」
 断言する。
「まあ、それならいいんですけど」
「そうよ。だから覚えときなさい」
「……何をですか」
「あんたより先に仕事終わらせて、九番隊の業務妨害しに行ってあげるから」
「………すみません。どういう理論展開でそういう結論が出るんですか」
「何でもいーのよ。とにかくそれで決定!」
 有無を言わさず決め付けると、乱菊は、折よく差し掛かった十番隊舎に向かって身を翻す。
「分かったわね、修兵!?」
「はいはい」
 苦笑混じりにそう返し、隊舎の中へと消える姿を見送ると、修兵は改めて九番隊舎へと歩き出す。
 楽しみにしている…というのは、多分、言わない方がいいだろう。





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