断りもせずに開けた部屋は、空のまま。
当然といえば当然だ。それを分かって来たのだから。
するりと滑り込んだ部屋は、正確には執務室。
内装は、隊が異なるとしても、基本的な所にそう大きな違いがある訳でもない。
鎮座した寝心地のよさそうなソファに、乱菊は満足の笑みを浮かべた。
それがあるからというよりも、その上が綺麗に整って、すぐにでも眠れそうになっていたから。
と言って、すぐに寝てしまったら意味が無い。きちんと念を押して、告げ口などされないようにしなければ。
最も、間違っても彼がそんな事をするとは思えないけれど。
帰って来るまで待っていようと、乱菊はソファに近付いた。
そしてふと、空の机に目が行った。
何も乗っていないそこは、彼ではなく、彼の隊長の机。
一言も残す事無く去って行った、多分、ずっと尊敬していたであろう隊長の。
そのまま目を転じれば、そこには書類の積み重なった彼の机。
去って、それで終りではないのだ。
残されたものは、誰かが引き受けなければならない。そういうもの。
ふっと、息が零れ、笑みが浮かんだ。
どんな笑顔なのか、自分でもよく分からないけれど。
勢いよくソファに腰掛け、そのまま身体を横に倒した。
そう。たまには、愚痴を聞いてあげるのもいい。
いつも、彼がそうしてくれているように。
近付く気配を感じながら、乱菊はもう一度笑みを浮かべた。
彼は一体、どんな顔をするだろう。